野田
カプシド内に核酸分解酵素を発現させることで感染の予防・治療を狙った論文。
レトロウイルスのカプシド内にヌクレアーゼを発現させるようなプラスミドを作り酵母にトランスフェクトすると、酵母のウイルス様粒子の産生を99%程度抑制した。同様の実験をトリの細胞を用いてMl-MLVの抑制を行ったところ、やはり予防効果も治療効果も得られた。
臨床的な応用は難しいが、SPFのトランスジェニック動物を作る上で応用できるかもしれない。

庄嶋
ガンマレトロウイルス属の感染成立に関した論文。
ガンマレトロウイルス属のエンベロープ蛋白にはPHQモチーフという配列があり、これが一アミノ酸でも変異していると感染効率が大きく落ちる。特にヒスチジンが重要で、タイターは10の5乗レベルがほぼ0にまで落ちる。蛋白の検出と、フローサイトメトリーによって、インコーポレーションとバインディングには影響がないことが分かっている。
それで、ガンマレトロウイルス属のPERV-Aに関し、PHQモチーフのHをAに変異させ感染性を減じたものは、GALVのレセプターバインディングドメイン(RBD)を発現させることによって感染性が回復した。また、細胞にGALVのレセプターがあると更に感染力は上がった。この感染力の回復は、RBDが外部から持ち込まれていることによりトランスアクチベーションと称できるが、この効果はPERVのレセプターを持たないヒトやげっ歯類の細胞においても確認された。
つまり、このトランスアクチベーション経路を用いることでPERVは種の壁を容易に超えることができる、ということ。バインディング後のコンフォメーションチェンジに際し、自分のレセプターやRBDではなく、他のを使ったほうが効率が上がるという、実に奇妙な感じの現象。